断食は一定期間いっさいの、あるいは特定の種類の飲食物を断つことを意味し、世界の諸宗教に広くみられる宗教行為である。
この意味では、「断ち物」といわれるものや、未開宗教に多くみられる一時的食物禁忌も断食のなかに含まれてしまうが、トーテミズム、ユダヤ教、イスラム教、ヒンドゥー教などにみられる恒常的な食物禁忌は除外される。
断食が行われる時期はさまざまであり、またその動機もけっして一様ではない。
諸学者によってこれまで多くの説明がなされてきたが、いずれも定説とはなっていない。
いまかりにこれを分類してみると
第一に、妊娠、出産、初潮、成年式、死など人間の一生のサイクルとして現れる危機的状況に際して、当事者ないしは配偶者や家族の者が、断食をはじめとする一定の儀礼を行う場合が多い。
また、戦争や干魃(かんばつ)などの共同体的危機に際しても、断食が行われることは、ユダヤ教やイスラム教にみられるとおりである。
第二に、呪術(じゅじゅつ)的行為や祈願に際して、その効果を高めたり、自己の誠意を示すためにしばしば断食が行われる。たとえば、イスラム教では、断食中の祈願はかならず聞き入れられるといわれる。
第三に、断食は、祭り、加入式、聖餐(せいさん)などの宗教儀礼の準備、浄(きよ)めとして、潔斎、物忌みの一部として行われる場合が多い。
たとえば、ヒンドゥー教や神道(しんとう)の祭り、カトリックのミサ、洗礼などの諸典礼の前などがそうである。
第四に、断食は贖罪(しょくざい)、懺悔(ざんげ)の行為として行われる。ユダヤ教では、バビロンの捕囚によって神殿で犠牲(いけにえ)を献(ささ)げることができなくなると、贖罪のために祈りと断食がこれにかわるようになった。